2024
12.06

「自由開業・自由標榜の見直し」など主張、財務省 「秋の建議」に向け議論、「特定過剰サービス」で減算措置も

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情報源: 医療維新 | m3.com

レポート 2024年11月13日 (水)配信水谷悠(m3.com編集部)
 

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 財務省は11月13日の財政制度等審議会財政制度分科会(分科会長:十倉雅和・住友化学代表取締役会長)に提出した資料で、「医師数適正化および偏在対策」として「自由開業・自由標榜の見直し」「医学部定員の適正化」「外来医師多数区域での保険医新規参入の制限」といった規制的手法の他、ある地域で特定の診療科での医療サービスが過剰と判断される場合に「特定過剰サービス」として減算対象とすることなどを主張した(資料は同省のホームページ)。

増田分科会長代理

 過去の建議でも盛り込んだ診療所の「地域別診療報酬」や、毎年薬価改定の強化、費用対効果評価の薬価収載への適用なども主張。記者会見した増田寛也分科会長代理(日本郵政取締役兼代表執行役社長)は医師偏在対策について、「(同日の会議で)医師偏在対策は手ぬるかったと言う委員もいた。経済的ないわゆるディスインセンティブも含めて解決に乗り出していくべきではないか。自由開業がこれまであったが、時代は大きく変わっているので、検討の対象にしていくべきで、広くこの問題を実効が上がるように考えていくべきだ」と指摘した。

財務省は分科会に提出した資料の中で、外来医療計画の取り組みは進んでいるものの「全体の診療所数の増加は止まっていない。一方で、病院の勤務医不足の課題が指摘されている」として、病院勤務医から開業医へのシフトを促さないような診療報酬体系の「適正化が必要」と指摘。ドイツのように需給のバランスによって保険医の許可制限をしている国を引き合いに出し、「外来医師多数区域での保険医の新規参入に一定の制限を設けることはもとより、更に、既存の保険医療機関も含めて需給調整を行う仕組みを創設する」ことを主張した。

診療報酬の地域別単価については春の建議に盛り込んだのと同様、「診療所過剰地域」で1点当たり単価を引き下げ、それによる公費節減効果を活用して医師不足地域での対策を強化することを主張した。

診療科偏在指標がないことを批判

診療科偏在については現在、「医師偏在指標」が2次医療圏毎につくられ、診療科については産科・小児科のみ作成されていることから、「医師偏在対策をエビデンスベースで進めるためには、『診療科毎などの医師偏在指標』がそもそも存在しないことが問題。既存の統計データの制約を言い訳にするのではなく、近似的な手法を含め、診療科毎などの医師偏在指標を早急に世に示すべき」と厚生労働省の姿勢を批判。「○○科のサービスが特に過剰な地域」を判断するための基準策定を求めた。

その上で、「特定過剰サービス」に該当し、かつアウトカムが良好でない場合に1点単価の引き下げや診療報酬の減算を行うことを求めた。

「リフィルが当たり前の世の中に」と提言

医薬品関連では、リフィル処方の利用率が0.05%(2023年3月)にとどまり低調なことを問題視、国民への周知と医療関係者への普及を促進して「『リフィルが当たり前』の世の中になることが期待される」とし、短期的に強力に推進するためにKPIを設定した上で促進策を検討するべきだと主張した。

増田氏が氏名を伏せて紹介した、社会保障全般や医療に関する分科会での発言は以下の通り。

  • 現役世代の負担増を抑制することも意識しながら、改革を進めていく必要がある。ようやく動き始めた成長と分配の好循環に水を差すことになってはいけない。医療介護の改革に取り組み、現役世代の負担軽減を図っていくことが重要である。
  • 改革工程には重要な項目が網羅されており、着実に実施してくべきである。その上で、社会保障の給付全体をコントロールする仕組みを強化する必要がある。
  • 年齢ではなく能力に応じた負担の実現は全世代型社会保障の重要な論点である。応能負担をさらに徹底するべき。一律に高齢者と言っても、収入がある人、資産がある人など実像は様々であり、保有金融資産の反映など丁寧かつ早めに議論を進めるべき。そのほか、保険給付の範囲や受益者負担の徹底についても検討を深めるべき。
  • 医療機関の経営実態が国民に見えにくいことは問題であり、医療機関が享受している恩恵を含め、見える化をさらに進めていくべきである。
  • 我が国の創薬力について、ポテンシャルがあるにもかかわらず、低下してしまっているのは課題だ。薬価改定におけるメリハリ付けとセットで、保険外で創薬支援を強化することも重要だ。創薬のエコシステムの構築に向け、それぞれの事業フェーズに応じて解像度を上げて対策を打つ必要がある。その際には縦割りが指摘されるAMEDへの補助金を含め、創薬力強化のために投入される資金が効果的に使われているのかチェックが必要だ。
  • 後発医薬品については、安定供給を阻む産業構造の改革を進めることが肝要で、総合的な対応を図るべきだ。
  • 現役世代を含めた保険料負担の軽減、ひいては国民皆保険制度の持続性確保の観点から、来年の薬価改定も確実に実施すべきである。その上で、過去2回の奇数年での(中間年)改定では適用されなかったルールがあり、改定対象品目が限定されるなどしたことは問題であって、今回の薬価改定は適用ルールや対象品目の拡大も必要になる。
  • 医師偏在は自由開業制、自由標榜制を前提とした対策しか取れなかった中で、深刻化した問題であり、医療の財源の多くは税・保険料であることも踏まえ、全体最適の観点から改革を断行していくべきである。医師多数区域での規制強化、経済的ディスインセンティブ措置等、あらゆる政策を総動員して実効性のある政策を行うべき。
  • 保険医の要件として一定水準以上の保険診療に従事した経験などを求めるべき。
  • 医療保険における費用対効果評価制度の活用を進めるべきで、そのための体制強化を早急に図るべき。また、保険外併用療養費制度や民間保険の活用も着実に進めるべき。
  • リフィル処方の利用率が非常に低いのは問題であり、KPIの設定とともに患者の利便性向上に繋がる面も国民に周知徹底することで、国民の行動変容を促すことや、出来高払いとなっている診療報酬を見直すことも含め、リフィル処方が当たり前になるよう具体的な施策を早急に実施するべき。
  • 改革工程に掲げられた見直しを着実に実施すべきで有り、特に実効給付率が増加傾向にあることも踏まえ、高額療養費の見直しはスピード感を持って取り組むべき。高齢者医療制度の自己負担割合の見直しにも着手すべきである。

 

 

■この記事に対する読者のコメント(m3.comの見解ではありません)

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隈部時雄

東京都 内科 開業医

 診察の基本を無視している。人の病気を簡単にとらえすぎている。その結果、何か悪化・死亡の場合、全て個人の医師の責任。このツケは全て国民の健康に直結している。
そして医療費の増大にもつながる。特に初診の重要性について。また診察も検査もしないでリフィルで済ませてしまう。被害者は国民。その責任を厚労省は取りますか。日医は何をしているのでしょうか。マスコミへの説明、野党対策はしているのでしょうか。有識者の意見・その発言の責任を取れますか。このまでは医療後進国への道か…まず「診察」を大切にしましょう。

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神田信之

岐阜県 内科 フリーランス

 この記事の内容では生ぬるいというより単なる弥縫策にすぎないと考えます。保険医には十分な給与を支払った上で勤務地・診療科を選べなくする方法(あるいは入札制にする方法も考えられますが)しかあり得ないと思います。消防や警察と同様、公務員化してしまうのがはっきりして分かりやすいと思いますが。
開業医の公務員化も可能です。特定郵便局長のように一般職国家公務員とする方法があります。

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中村多一郎

東京都 小児科 医療法人社団ナイズ・キャップスクリニック

 当方、民間医療機関の小児科専門医です。拙い経験を基に意見させていただきます。
「医師偏在対策をエビデンスベースで進めるためには、『診療科毎などの医師偏在指標』がそもそも存在しないことが問題。既存の統計データの制約を言い訳にするのではなく、近似的な手法を含め、診療科毎などの医師偏在指標を早急に世に示すべき」と厚生労働省の姿勢を批判。
上記コメントは当然です。これは分かりやすく言い換えると、「各自治体の医療圏人口規模あたりの各診療科医師配置数をデータ化することは、医療の偏在是正、集約化、効率化の観点から、可及的速やかに実行されるべきである」と考えます。
さらに駒を先へ進めるならば、「医療圏人口規模あたりの各診療科の必要医師数を標準化・規格化し、それに基づいて医局人事が実行されるべきである」と考えます。
上記は、大学病院の若手医局員時代から感じてきました。
教授回診、総回診、医局会、各種プレゼンにおいて、症例の診療方針に関してあれだけ神経質に強迫的に「エビデンスは?エビデンスは?エビデンスは?」の嵐です。
それにもかかわらず、医局人事では医療圏人口規模を無視した、不平等な医局人事がなされます。そこに何らエビデンスは無く、「昔からこの医師配置数で変わりない」というコメントだけです。そこで教授や医局長の思考が停止してしまう訳です。
それで何が生じたかと言うと、管轄医療圏12万人あたり小児科常勤医師:私1人、隣接医療圏5万人あたり小児科常勤医師:3人、隣接医療圏20万人あたり小児科常勤医師:7人という不平等な医師配置となり、他の医局員は順番に休暇を取得していたのに、私のみ休暇が取得できない事態となりました。
これは明確な差別であり、医師個人のみならず、組織全体のパフォーマンスを低下させます。
医師配置こそ、エビデンスに基づいて然るべきです。
古巣の教授、医局長、あなた方に言っているのですよ。
何を言いたいかというと、医療圏人口規模あたりの各診療科医師配置数がデータ化され、医療圏人口規模あたりに必要な各診療科医師配置数が標準化・規格化され、それら標準化・規格化ルールによって平等な医局人事につながると考えます。

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安藤智

神奈川県 循環器内科 勤務医

 人口が加速度的に減少することが確定している地域が多数ある中で、どんなにインセンティブを働かせてもそのような地域に行きたがる医師は数少ないでしょう。保険診療医を締め上げれば締め上げるほど、自由診療へと若手は傾きますし、それも制限するようなら医学部を応募する人がそもそもいなくなります。今の医学部生たちは本当にかわいそうです。

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小柳 光仁

神奈川県 内科 開業医

 地域において足りていない診療科をどうするか?
これは地域医療と関係がある事柄であり、また診療する科を自由に標榜していいかといったことは本来財務省が決めることではなく医師の偏在を含め厚労省が管轄省庁であることから、厚労省と医師会で話し合う事と思われました。
郵便局は民営化しているのに、民間の会社社長が、どうするか発言をされて医療の政策まで決まる事があれば専門家ではないから疑問符がつくと思われます。地域別単価の導入など施行されたなら働いている人達も大変なことになります。そもそも今の医療は保険診療にせよ医療従事者の犠牲の上で成り立っているのが理解されていれば、地域別単価の導入といった話は出てこないと思います。
さらなる労働環境悪化に耐えきれず働く人が他の産業に流出する危険性があり医療が成り立ちません。現場のことを理解しているとは言い難いと思われます。
最近医療について、とりわけ保険診療をどうするかについても診療報酬改定で、地域医療において内科も大事な診療科だと思われますがマイナス改定により内科は賃金と人の確保において打撃を受けています。私の診療所においても改定後、月にマイナス10%ほどの減収が出ています。
そんな状況であるので日医総研の資料では内科医師の数も増えていないとあり、このままだと地域医療の担い手が減ってしまう今後を危惧します。
医師の数を含め本来厚労省が決めることなのに、経済界や財務省に発言力や決定権があるようでは、選挙で選ばれた民意を反映しているとは言えず、民主的ではないのでは?と思われました。
今のままだと各省庁の本来の役割を果たせないのではないかと考えてしまいます。医療経済学は大事だとは思われますが、現場の実態に合わない政策を省庁の垣根を越えて行われたら、地域医療が成り立たなくなるのではと心配をしてしまいます。

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