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提訴:「がん細胞死ぬ」点滴後死亡 自由診療クリニック 遺族が提訴へ 事故・訴訟 2024年10月23日 (水)配信毎日新聞社
情報源: 医療ニュース | m3.com
自由診療で「がん細胞が死ぬ」と勧められた点滴を投与された後に死亡したとして、がんを患っていた男性(当時46歳)の遺族が23日、大阪市のクリニック院長に935万円の損害賠償を求める訴えを大阪地裁に起こす。遺族側は点滴の中身が何か明らかになっておらず、危険性などの十分な説明がなかったと訴える。
訴状によると、男性は2021年4月、前立腺あるいは精のうのがんと診断された。一般病院での抗がん剤治療のほか、クリニックで診察を受けていた。
自由診療を提供するクリニックは「がん細胞を死滅させる」などと宣伝。医学的な効果が確認されている標準治療と異なり、自由診療は公的な医療保険の対象ではなく、患者が全額を自己負担することになる。
男性は21年10月、「米国製の治療薬」とされる点滴を受けた。ところが、11月には動脈に血栓ができているのが分かり、腫瘍マーカーの値も悪化。翌年4月にがん性腹膜炎で死亡した。
男性と院長のメッセージのやりとりによると、男性は「タンパクの遺伝子で、がん細胞死を起こさせる」との説明を受け、「ガスダーミンE」と呼ばれる物質を勧められていた。
実際に投与された点滴を後で確認すると、院長は「ガスダーミンRNAとなっていました」「もう一度アメリカに確認してみます」と返信。それ以降、明確な返答はなかったという。
遺族側は投与の同意書も見当たらず、点滴が死亡につながったと主張。院長が十分な知識を持たずに説明責任も果たしていないとし、「がん細胞の増殖が抑えられることを期待していたが、物質は治療として人体に投与できるものではなかった」と訴えている。
クリニックの院長は毎日新聞の電話取材に対し、「投与したのは他の患者にもごく普通に使っているものだ。おかしな治療をしたつもりはなく、なぜ訴えられる状況になっているのか分からない。患者さんとの同意もあり、勝手に治療したわけではない」と話している。【木島諒子】
◇同意書見つからず
「アメリカ製の薬で、日本製よりもパワーあるようです」。医師はそう言って「治療薬」を勧めていた。死の恐怖と闘っていた男性が望んだとはいえ、点滴を受けてからわずか半年後の死。妻(37)は夫が漏らした一言で、裁判を起こそうと決めた。
クリニックは大阪市北区の繁華街・北新地の近くのビルにある。「血液クレンジング」や「高濃度ビタミンC点滴」と呼ばれる美容法から、がん治療まで手広く取り扱っている。
がんの発見により、男性がすがったのはクリニックでの「遺伝子治療」と呼ばれるものだった。不安を感じた妻は「標準治療を受けてほしい」と強く求め、言い争うこともあった。
男性はクリニックで点滴を受けた後、体の痛みを和らげるなどする「緩和ケア」を受ける状態になった。「万が一のことがあったら、クリニックを訴えてくれ」。男性はこう言い残して息を引き取った。
「生きようとして受けた治療なのに、訴えていいのか」。妻は葛藤したが、めったに頼み事をしなかった夫の最後の望みだった。
弁護士に相談し、裁判所によるクリニック内の書類などを確保する手続きが認められた。カルテは通院した日ごとに1行程度の記載しかなかった。点滴の同意書も見つからない。「こんなにずさんな管理だったのか」。妻は憤りを隠せない。
2年半の結婚生活だった。「僕が一番愛した女性。もっと幸せになれる」と言ってくれた夫には感謝の気持ちでいっぱいだ。だからこそ、死の真相を知りたいと願っている。
◇効果判断、冷静に 日本医科大武蔵小杉病院・勝俣範之教授
有効性が公的に確認されていない治療法を提供する自由診療について、日本医科大武蔵小杉病院の勝俣範之教授は「冷静に検討してほしい」と呼びかけている。
臨床試験を何度もクリアし、医学的な裏付けで効果があるとされるのが標準治療だ。これに対する自由診療は科学的根拠の不十分さなどから、医療保険の対象になっていない。
がん治療を専門とする勝俣教授は、症状が進行するほど患者は冷静な判断ができなくなると指摘。「根拠のある治療法よりも、死を前にしたら『がんに効く』との宣伝が響いてしまうこともある」と語る。
教授が強調するのは患者に向き合う医師側の責任だ。「自由診療を提供するならせめて、効果がある可能性は低いことなどを正しく、分かりやすく患者に伝えなければならない」と指摘。根拠のない治療を「効果がある」とうたっているケースも見受けられるとし、「患者をだますような治療は野放しにせず、国が規制していくことが必要だ」と提言する。
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