2024
11.15

働く人の「ストレスチェック」すべての事業場で義務化へ 厚生労働省 検討会「中間とりまとめ案」を了承 | ニュース | 保健指導リソースガイド

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 厚生労働省は、10月10日に開催された「第7回 ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会」で、中間とりまとめ案を公表した。

情報源: 働く人の「ストレスチェック」すべての事業場で義務化へ 厚生労働省 検討会「中間とりまとめ案」を了承 | ニュース | 保健指導リソースガイド

厚生労働省は、10月10日に開催された「第7回 ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会」で、中間とりまとめ案を公表した。
そのなかで、従業員50人未満の事業場にもストレスチェック制度の義務を拡大する方向性が示され、実施へ向けて十分な準備期間を設けることや、地域産業保健センター等の支援体制の強化などを盛り込み、同案は了承された。

ストレスチェック制度導入とその現状

働く人たちのメンタルヘルスの問題は、以前から課題として認識されてきたが、長年、その対策は各事業場に任されてきた。しかし、平成26年に労働安全衛生法(安衛法)が改正され、翌年12月からストレスチェック制度を導入し、本格的に対策が進められるようになった。

この制度は労働者自身のストレスを評価し、その結果をもとに職場環境の改善や医師の面接指導を行うことが基本となっている。メンタルヘルス不調の予防に重点を置いたもので、ストレスに早期に対応することができるようになった。
従業員50人以上の事業場に対して義務づけられており、50人未満では努力義務となっている。

「令和5年 労働安全衛生調査(実態調査)」によると、メンタルヘルス対策に取り組む事業場の割合は、労働者数50人以上の事業場では91.3%だったが、30~49人では71.8%、10~29人で56.6%と、小規模事業場になればなるほど低い状況であった。

ストレスチェックの実施状況をみると、50人以上の事業場では84.7%、50人未満では32.3%にとどまっている。

メンタルヘルス不調者は右肩上がりで増加傾向

厚労省「過労死等の労災補償状況」によると、精神障害の労災支給決定件数は増加傾向にあり、令和4年度には710件、先ごろ公表された令和5年度では883件に増加し、過去最多を更新していた。
また、メンタルヘルス不調によって連続1カ月以上の休業、または退職した労働者がいる事業場の割合も上昇傾向にあり、ここ数年は1割を超えて推移している。

出典:「第1回 ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会(令和6年3月29日)」資料2 P.12 より

今年3月に「検討会」を設置し、ストレスチェック制度をめぐって議論

こうしたなか、昨年6月に閣議決定された『経済財政運営と改革の基本方針2023(骨太の方針2023)』では、「多様な働き方の推進」の項目において「メンタルヘルス対策の強化等の働き方改革を一層進め」るとされた。
さらに、平成26年の改正安衛法の実施状況について議論された「第134回労働政策審議会安全衛生分科会」(令和2年)では、今後、ストレスチェック制度について効果検証を行い、検討していくべきと指摘されていた。

これらを踏まえ、厚労省はストレスチェック制度を含めたメンタルヘルス対策について、実施状況などを検証し、その結果必要なものについて対応を検討することを目的に、今年3月に「ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会」を設置して議論を重ねてきた。

ストレスチェック制度の効果については、学術論文や研究報告をもとに検証を行い、「ストレスチェック及び面接指導の実施により、自身のストレスの状況への気付きを与える効果や、個々のストレスを低減させる効果が確認された」と評価している。

その一方で課題として挙がったのが、50人未満の事業場への義務化の要否と、集団分析・職場環境改善の実施だ。

外部機関の活用で、50人未満の事業場も義務化へ

現在、ストレスチェックの実施を外部機関に委託している事業場は7割を超え、その委託先は、健診実施機関が最も多く4割弱、次いでEAP(従業員支援プログラム)機関となっている。

中間とりまとめ案では「外部機関の活用等により、対応可能な環境は一定程度整備されてきている」との認識を示し、実施義務を50人未満のすべての事業場に拡大する方向性が示された。

導入にあたっては「産業医がいない小規模事業場では、適切な情報管理等が困難な場合もあるので、50人未満の事業場においては、原則として、ストレスチェックの実施を労働者のプライバシー保護の観点から外部委託することが推奨される」と提言している。

実情に即したマニュアルの作成・整備を

現在のストレスチェック指針やストレスチェック実施マニュアルは、50人以上の事業場における実施体制・実施方法を念頭に示されている。そこで「50人未満の事業場に即した実施体制・実施方法等について整理し、マニュアル(モデル実施規程を含む)等を作成すべきである」と下記のポイントを示した。

マニュアルにおいて示すべきポイント

 

  • 労働者のプライバシー保護の観点、人間関係に対する配慮
  • 衛生委員会等の設置がない場合の、関係労働者の意見を聴く方法
  • ストレスチェックの実施を労働者のプライバシー保護の観点から外部委託する場合であっても、事業者としてストレスチェック制度に主体的に取り組んでいくための実施内容(外部機関を活用する場合も含め、実施者(医師、保健師等)、実施事務従事者、実施責任者、ストレスチェック結果の保存、面接指導、事後措置等)
  • 産業医の選任の有無や安全衛生推進者又は衛生推進者(選任義務は10人以上50人未満の事業場。)の選任の有無、10人未満等の特に小規模な事業場などのケースごとに、現状に即した取り組み可能な実施内容
  • 集団分析・職場環境改善の対応が困難な単位集団のケースにおける対応等
  • 地産保等の支援の活用

 

一方、ストレスチェック実施結果の監督署への報告義務は、「一般健診と同様に、50人未満の事業場については、負担軽減の観点から課さないことが適当である」としている。

地産保の体制強化と十分な準備期間を

ストレスチェック制度導入にあたり、産業医の選任義務がなく、産業保健スタッフがいないことが多い50人未満の事業場は、「都道府県産業保健総合支援センター(産保センター)及び地域産業保健センター(地産保)による支援が重要であり、その充実が必要である。特に、地方はストレスチェックの外部資源が乏しく、専門家等の人員が手薄であるため、産保センター及び地産保の支援体制の充実が重要である」と指摘している。

さらに、義務化により面接指導の対象者は大幅に増えることが予想され、「円滑な施行に資するよう、登録産業医等の充実など、地産保で高ストレス者の面接指導に対応するための体制強化を図ることが不可欠である」と地産保の体制強化を謳っている。

全事業場への導入にあたって乗り越える課題も多く「これらの支援体制の整備、支援を含めた制度の周知、その上での50人未満の事業場における実施体制の整備に要する期間を確保するため、十分な準備期間の設定を行うことが適当」ということも盛り込まれた。

さらに、もう一つ課題として挙がった「集団分析・職場環境改善」については、大規模事業場であってもいまだに試行錯誤しながら取り組んでおり、義務化については引き続き検討課題となった。

*   *   *

すべての事業場でストレスチェック制度が義務化される方向性が示されたことにより、メンタルヘルス対策が進み、働く人の健康管理がさらに強化されることが期待される。
しかしながら、小規模事業場ならではの環境や事情等もあり、制度を一律に義務化することで、結果として本来の目的であるメンタルヘルスの向上が果たされないリスクも検討会では指摘されている。事業場の規模や業種に応じた柔軟な対応も、不可欠となるだろう。

参考資料

 ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会(厚生労働省)
 ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会 中間とりまとめ案 (厚生労働省)
 令和5年 労働安全衛生調査(実態調査) 結果の概要(厚生労働省)
 令和5年度「過労死等の労災補償状況」を公表します(厚生労働省)

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