2024
09.30

【10月1日より接種開始】新型コロナ「レプリコン・ワクチン」は本当に大丈夫なのか?ワクチンの第一人者が答える 「5人死亡」「18人死亡」「エクソソーム」「日本だけ承認」……ネットなどの指摘をどう読むか(1/6) | JBpress (ジェイビープレス)

PODCASTネタ

 石井氏は、レプリコン・ワクチンに関する懸念が挙がっていることについて、次のように述べた。「メディアでワクチンに対する不安を煽る記事が増えている現状ですが、私の研究や論文を基にした見(1/6)

情報源: 【10月1日より接種開始】新型コロナ「レプリコン・ワクチン」は本当に大丈夫なのか?ワクチンの第一人者が答える 「5人死亡」「18人死亡」「エクソソーム」「日本だけ承認」……ネットなどの指摘をどう読むか(1/6) | JBpress (ジェイビープレス)

 この9月、厚生労働省が、自己増殖型mRNAワクチン、いわゆる「レプリコン・ワクチン」を承認した。10月から接種開始となる。

 レプリコン・ワクチンを巡っては、名前の通り自己増殖型という新しい仕組みを持つこともあり、接種した後にワクチンの成分がいつまでも増え続けて、体内に想定外の悪影響をおよぼすのではないかという懸念が広がっている。

 しかも、海外の他国ではまだ承認されておらず、日本で初めて実用化されることもあって、不安の声が助長されているところもある。一般の人ばかりではなく、医療関係者からも不安の声がある。

 一方で、ネット上にある情報は、断片的なものが多く、引用文献の扱いも不十分なものも目立つ。本当にその心配は的を射ているのだろうか。

 獣医師資格を持ち、医療分野のジャーナリストとして25年近くになる筆者としては、もう少し確度の高い情報を提示すべきだと感じている。

 そこで、今回は原典に当たった上で、レプリコン・ワクチンの承認プロセスなどについて中立の立場にあるワクチン研究の第一人者、東京大学医科学研究所ワクチン科学分野教授の石井健氏にも取材し、レプリコン・ワクチンを巡る不安に答えていく。(星良孝:ステラ・メディックス代表/獣医師/ジャーナリスト)

検証する上で当たるべき2つの原典

石井氏は、レプリコン・ワクチンに関する懸念が挙がっていることについて、次のように述べた。

「メディアでワクチンに対する不安を煽る記事が増えている現状ですが、私の研究や論文を基にした見解をお話しすると、現時点ではワクチンに重大な問題があるとは考えていません。ただし、新しい技術に対する不安は当然のことで、そのような懸念が出ることについては理解しています」

コロナ禍で多くの人が不安を感じたと思うが、ワクチンを巡ってはさまざまな議論が出る傾向にある。レプリコン・ワクチンについても多くの意見が出ているが、ネット上にある懸念の中で重大だとされているのが、レプリコン・ワクチンを接種すると死亡のリスクが高まるという指摘だ。これについてまずは検証する。

この懸念については、大きく2つの原典に当たることでどういうことかを理解することができる。

・レプリコン・ワクチンの安全性と有効性を確かめた臨床試験の論文
・レプリコン・ワクチンの日本での承認審査に使われた承認審査報告書

最初に臨床試験を検証しよう。

「臨床試験で5人が死亡」の言説はどう解釈すべきか?

2024年に発表された臨床試験の論文は、第1相~第3相までの試験情報をまとめて報告したものだ。医薬品は、第1相~第3相と段階を踏んで、人数を増やしながら、慎重にその安全性や有効性を確認している。

ネット上で問題とされたのは第3b相という最終段階の試験で死亡者が出ており、これがワクチンと関連するという疑念が持たれていることだ。

この試験を見てみると、対象者は約1万6000人とかなり多いことが分かる。試験では、対象者が2つのグループに分けられ、片方の約8000人にはレプリコン・ワクチン、もう片方の約8000人にはプラセボ(偽薬)が接種された。

試験の期間は92日間が設定され、この間に両方のグループを合わせて合計21件の死亡が報告された。この死亡について懸念が集まっているわけだが、内訳としては、レプリコン・ワクチンの接種を受けた群では5人、プラセボの群では16人が死亡した。

一部のネットの情報では、ワクチン接種を受けた群で5人が死亡したことが問題視されているが、プラセボ群の16人と比べると割合は少ない。

「21人死亡」という話も出ているが、それはレプリコン・ワクチン群とプラセボ群を合わせた死亡数が21人のため。ただ、プラセボ群の死亡はそもそもワクチンと関連しない。

論文によると、死亡者のうち、ワクチン接種に関連した死亡は一件も確認されず、コロナ感染に関連する死亡が10件(ワクチン接種者1人、プラセボ接種者9人)報告された。これもワクチン接種の群の方が少ない結果となっている。

そのほかの死亡は、がんによる死亡などで、ワクチンでこれまで問題になった心臓や血管に関わるものは、プラセボ群の大動脈解離に限られた。

※1~92日目における死亡例は、レプリコン・ワクチン群5/8059 例(0.1%、低血糖、膵炎、肺の悪性新生物、咽頭癌転移、コロナ感染が各1例)、プラセボ群16/8041例(0.2%、コロナ感染が9例、リンパ節腫脹、肝硬変、肝がん、大動脈解離、肺炎、アシネトバクター性肺炎、敗血症性ショックが各1例)

8000人もの大勢が試験に参加すると統計的に死亡者が出ることもある。他の医薬品の臨床試験でも珍しくはない。

ネットの言説では、5人が亡くなったという点が強調されているものも見られるが、全体の人数と死亡の割合を見ると、冷静に医薬品の安全性を評価することができる。

後述するが、レプリコン・ワクチンは新しいものなので、今後の不確定要素はあるのだが、この臨床試験に限ってみれば、ことさら強調するのは妥当とは言えないのではないか。

石井氏もこの臨床試験については「第1相から第3相までの臨床試験を経て、安全性と有効性は十分に確認できている」と解釈する。新しい技術を用いたワクチンの不確定要素については石井氏も慎重に見守るべきだというが、それについては後述する。

「18人が死亡」という懸念の声をどう考える?

続いて、日本での承認審査に使われた承認審査報告書についても見る。

ネットの指摘では、この審査報告書の追加データにおいても死亡が報告されていると問題視されている。例えば、ネットでは「18人が死亡した」と批判する意見が確認できる。

これはどういうことだろうか。

報告書では、臨床試験の論文に掲載された92日目よりも後の210日目までの情報が掲載されている。92日目よりも後はレプリコン・ワクチンとプラセボの入れ替えが行われ、その影響が評価されている。

具体的には、92日目までにレプリコン・ワクチンの接種を受けていた人は一転、プラセボの接種を受け、逆にプラセボの接種を受けていた人はレプリコン・ワクチンの接種を受けるという入れ替えが行われた。医薬品の効果が一方のグループに偏らないように入れ替えが行われるのは、医薬品の試験ではよく行われることだ。

こうして2つのグループが観察された結果、レプリコン・ワクチン―プラセボの順番で接種を受けたグループでは9人が、プラセボ―レプリコン・ワクチンの順番で接種を受けたグループでは4人が死亡した。

ネット上では、92日以降に両方の群を合わせて合計13人が亡くなったのではないかという指摘が見られる。92日目までにレプリコン・ワクチンの接種を受けた群で亡くなった5人も加えて、合計18人が亡くなったというものだ。

こちらについても、両方の群が約7500人存在し、それらの中で4カ月ほどの期間で亡くなった人は全体の0.1%に過ぎない。心筋梗塞や脳血管発作といった心血管関連の死因があったが、1万5000人中2人であり、その頻度は極めて低い。ワクチンが原因と断定するのは無理があるように見える。

石井氏は審査報告書の死亡については、「これらがワクチンが原因になったと懸念することは論理に飛躍があるのではないかと考えます」と説明する。

※レプリコン・ワクチン―プラセボ群9/7458例(0.1%、事故死、他の特定できない死亡が各2例、急性心筋梗塞、敗血症性ショック、外傷、口唇がん/口腔がん、悪性肺新生物が各1例)、プラセボ―レプリコン・ワクチン群4/7349例(0.1%、コロナ感染が2例、頭蓋脳損傷、脳血管発作が各1例)

自己増殖リスクは高いか、低いか?

レプリコン・ワクチンに関する代表的な懸念として自己増殖するというメカニズムに対するものもある。

審査報告書に書いてあるが、レプリコン・ワクチンは、ベネズエラ馬脳炎ウイルスというウイルスの持つ、「レプリカーゼ」というRNAを増殖させる機能を持つタンパク質と、これまでのコロナワクチンでも使用されたコロナのSタンパク質という2種類のタンパク質をコードするmRNAをワクチンにしたものだ。

自己増殖の機能を持つタンパク質はウマ由来のウイルスを使用しているため、安全性が担保されていると考えられる。異なる種のウイルスは感染性が異なり、無害となることが多い。

その上で、自己増殖するというレプリコン・ワクチンのメカニズムは安全であるのかという点が懸念材料になっている。

「レプリコン・ワクチンに対する懸念は、このワクチンが新しい仕組みを持つからですが、臨床試験や実際の使用データから見ると、現在までのところ自己増殖リスクは非常に低いと考えられます」と石井氏は評価する。

その上で、石井氏は、レプリコン・ワクチンは、ウイルスを使ったワクチンと、mRNAワクチンの中間であると指摘する。

従来のワクチンの中には、ウイルスそのものが使われ、体内で増殖する性質を持つものもある。一方、mRNAを使用したワクチンとしては従来のコロナワクチンがあり、これは世界中で使用実績がある。レプリコン・ワクチンはこれら双方の特徴の一部を併せ持っていると考えられるというのだ。

「『レプリコン・ワクチンが自己増殖する』という不安や懸念については理解できますが、自己増殖する性質は通常のウイルスを使ったワクチンでも確認されていることです。例えば、風疹、麻疹、黄熱などのワクチンは、ウイルスそのものを使っており、体内で増殖します。それらは副反応のリスクがあります」

確かに、既に普及しているワクチンの中には、ウイルス自体を使っているものは珍しくない。麻疹、いわゆるはしかのワクチンは、幼少期の接種が一般化している。体内で増殖するワクチンだが、懸念なく接種が広がっているのは、実績が多いからだろう。

レプリコンワクチンの仕組み(図表:共同通信社)レプリコン・ワクチンの仕組み(図表:共同通信社)
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