09.17
日本の「高額」薬剤、第1位は?:日経メディカル
皆さんは、処方時に薬価のことを気にしていますか?生物学的製剤や抗癌薬などを日ごろからよく使っている診療科の先生はさすがに気にしていると思いますが、若い頃、正直、私は薬価のことなんてあまり考えずに処方していました。ただ最近は、よく使う薬の中に高額なものが登場してきたこともあり、めち
皆さんは、薬剤の処方時に薬価のことを気にしていますか? 生物学的製剤や抗癌薬などを日ごろからよく使っている診療科の先生はさすがに気にしていると思いますが、若い頃、正直、私は薬価のことなんてあまり考えずに処方していました。ただ最近は、よく使う薬の中に高額なものが登場してきたこともあり、めちゃくちゃ気を遣っています。
とはいえ、日本には高額療養費制度という他国に類を見ないスンバラシイ仕組みがあり、1人当たり、または世帯ごとの自己負担に上限が定められています。ただ、収入が少ない方が自己負担の上限額は低いので、ウェイウェイいわせているブルジョワドクターの皆さんが高いお薬を処方されると、意外に支払いが大変なことになります。
単純な話、1カ月100万円の医療費がかかるとしましょう。この場合、一般的なサラリーマンでは月当たりの自己負担額の上限は約8万円になります。しかし、高収入のドクターの場合、約26万円という3倍以上の自己負担額になってしまいます。いいですか、高所得者は高額療養費の自己負担額の上限が約26万円ということです。
「でも、ドクターの皆さんは収入多いんやし、払えんことはないやろ」と言われることもありますが、26万円ってあーた、結構いい白物家電が買えますがな!
ウチの家は、いろいろなメーカーのエアコンが部屋ごとに混在していて割とカオスなのですが、やっぱ湿度の管理という点ではダイキンが最強じゃねーかと思っている最近です。でもダイキンは他のメーカーより少しだけ高い。冷蔵庫も、ふるさと納税や株主優待の返礼品で送られてくる食品が入らなくなってきて、もう1台買おうか迷っています。
ああ、そんな個人的な白物家電の話はどうでもよかった。そうそう、薬価の話です。
高額療養費制度の仕組みがあると、もはや薬価というのは(特に上限を超えた後は)患者にとってほとんど関係ないものになるわけですが、それでも高額な薬剤というのは医療経済的にもインパクトが大きいので、我々医療従事者は知っておくべきだと思います。
ここからは1規格当たりの薬価が高い製剤を第5位から紹介していきましょう。薬価は2024年8月15日時点のものを掲載しています。
第5位
スピンラザ(バイオジェン・ジャパン)
949万3024円(12mg 5mL 1瓶)
脊髄性筋萎縮症に対して2017年に発売された一般名「ヌシネルセンナトリウム」の髄腔内投与製剤で、核酸医薬の代表格です。4~6カ月ごとに投与する製剤となっています。乳児型の場合、初年度6回投与になるので、年間の薬価は5700万円近くになります。翌年からは投与頻度が年3回になりますが、長期に継続することになります。
第4位
ステミラック(ニプロ)
1523万4750円(1回分)
ステミラックは骨髄由来間葉系幹細胞であり、外傷性脊髄損傷のASIA機能障害尺度A~Cの患者に用いられます。患者自身から採取した骨髄間葉系幹細胞を約1万倍にまで培養して体内に戻すという再生医療で用いられます。脊髄損傷そのものの治療として、薬事承認(厳密に言えば「条件及び期限付承認」)を受けているのはステミラックのみです。治療施設が限られていますので、この薬剤の存在自体、知らない人の方が多いかもしれません。
第3位
キムリア(ノバルティスファーマ)
イエスカルタ(ギリアド・サイエンシズ)
プレヤンジ(ブリストル・マイヤーズ スクイブ)
アベクマ(ブリストル・マイヤーズ スクイブ)
3264万7761円(いずれも1患者当たり)
第3位は4剤あります。この全てが、患者自身のT細胞にキメラ抗原受容体(CAR)発現遺伝子を導入し、体内に戻して癌細胞を攻撃する、いわゆる「CAR-T療法」の薬剤となっています。
キムリア(一般名チサゲンレクルユーセル)は、再発または難治性のCD19陽性のB細胞性急性リンパ芽球性白血病、再発または難治性の濾胞性リンパ腫、再発または難治性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対して保険適用されるCAR-T療法です。日本で初めて承認されたCAR-T療法の薬であることに加え、「薬価が高い」という報道も一時期盛り上がったくらいですから、知名度は高いと思います。
イエスカルタ(アキシカブタゲンシロルユーセル)は、再発または難治性の大細胞型B細胞リンパ腫に対して用いられます。商品名の由来をざっと調べたのですが、よく分かりませんでした。英語名は「YESCARTA」ですし、冗談抜きで、「Yes!CART療法」かなと推測しています。
ブレヤンジ(リソカブタゲンマラルユーセル)は、再発または難治性大細胞型B細胞リンパ腫、再発または難治性濾胞性リンパ腫に対して用いられます。キムリアとイエスカルタはバッグ製剤をそのまま点滴静注して用いますが、ブレヤンジは、2種類のバイアルから構成され、CD8陽性細胞とCD4陽性細胞の細胞数が1対1になるよう、CD8陽性細胞を静脈内投与した後にCD4陽性細胞を静脈内投与するというものです。
上記3つは、いずれもCD19を標的とするB細胞リンパ腫に対する薬剤ですが、アベクマ(イデカブタゲンビクルユーセル)は、B細胞成熟抗原(BCMA)を標的とする「再発または難治性多発性骨髄腫」に対して用いられるCAR-T療法の薬剤です。対象や機序は異なりますが、CAR-T療法ということで他の薬剤と全く同じ薬価が設定されています。
なお、ヤンセンファーマのカービクティ(シルタカブタゲンオートルユーセル)も、再発または難治性多発性骨髄腫に対して用いられるCAR-T療法です。ただ、2024年8月15日時点で薬価未収載です。
第2位
ルクスターナ(ノバルティスファーマ)
4960万226円(0.5mL 1瓶)
両アレル性RPE65遺伝子変異による遺伝性網膜ジストロフィーに対する遺伝子補充療法です。一般名は「ボレチゲンネパルボベク」です。各眼につき網膜下への1回の注射で治療が完了します。両目では約1億円かかります。
第1位
ゾルゲンスマ(ノバルティスファーマ)
1億6707万7222円(1患者当たり)
ランキングトップは、ゾルゲンスマ(オナセムノゲンアベパルボベク)です。2位から圧倒的に引き離して1位となりました。商品名そのもののインパクトが大きく、「1億円超えの薬剤」として聞いたことがある人も多いでしょう。抗AAV9抗体が陰性の脊髄性筋萎縮症に対して保険適用されるものです(第5位のスピンラザは抗AAV9抗体陽性例に投与可)。早期に投与されることで歩行獲得の効果が高いとされており、単回投与で治療自体は終了します。当時、薬価設定を行った際には、脊髄性筋萎縮症に定期的に投与する必要があるスピンラザの薬価を参考にしたようです(関連記事:過去最高薬価1億6700万円、ゾルゲンスマの実力)。
意外なことに、トップ3にすべてノバルティスファーマが入るという結果になりました。
海外の高額薬剤はもっとすごい
ちなみに海外に目を向けてみると、2024年3月に米国で承認された異染性白質ジストロフィーの小児に対する遺伝子治療薬「レンメルディ」(オーチャード・セラピューティクス)が、425万ドルの価格が付いたという報道を目にしました。最近、ドル円相場が不安定なので、その時々でレートは異なりますが、1ドル140円で換算すると約5億9500万円というとんでもない薬価になります。2位の血友病Bに対する遺伝子治療薬「ヘムジェニックス」(CSLベーリング)も、350万ドルで約5億円です。どちらも希少疾患を対象とした薬で使用される数は少ないと思いますが、すごい額です。
ただゾルゲンスマも米国では210万ドルです(約3億円)。そう考えると、日本の薬価設定はむしろ良心的と言えるのかもしれませんね。
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