2025
07.17

垂れ流される「機能性表示食品」のCM、プロパガンダに加担するテレビ局の罪深さ 高齢者に健康の「ハルマゲドン」を突き付けるCMは見直すべきだ(1/4) | JBpress (ジェイビープレス)

PODCASTネタ

——この1粒に凝縮されています 健康食品のCMで、よく耳にする言葉ではないでしょうか。「あなたの健康をサポートする成分を、効率的に摂ることができる」という魔法の言葉です。そこには消費(1/4)

情報源: 垂れ流される「機能性表示食品」のCM、プロパガンダに加担するテレビ局の罪深さ 高齢者に健康の「ハルマゲドン」を突き付けるCMは見直すべきだ(1/4) | JBpress (ジェイビープレス)

小林製薬の紅麹サプリメントによる健康被害事件が明らかになって1年3カ月。信頼回復の途上にある同社は、食品・サプリを除くテレビCMを再開した。事件は過去のものになりつつあるかのようだが、国の審査なしに研究論文の提示だけで成分の働きを言及する機能性表示食品のCMには、相変わらず効果がありそうに見える演出が満載だ。テレビ局は営利主義に奔走するばかりでなく、安全性を重視して、CM考査のあり方を問い直すべきである。

(岡部 隆明:ジャーナリスト)

「繰り返しによって信じ込ませる」は広告戦略の一つ

——この1粒に凝縮されています

健康食品のCMで、よく耳にする言葉ではないでしょうか。「あなたの健康をサポートする成分を、効率的に摂ることができる」という魔法の言葉です。そこには消費者(視聴者)を幻惑する数々の宣伝手法が凝縮されています。

民放のテレビ番組では、多種多彩な健康食品のCMが放送されています。特に、中高年層がよく見ているBS放送では、健康食品のCMが怒涛のように流れています。

毎日、朝から晩まで、「体重が減少する」「認知機能が回復する」「ひざ関節の動きが改善する」などと思わせる情報に溢れています。乳酸菌、酵素、コラーゲン、グルコサミン、コンドロイチン…その成分を示す単語が耳障りなくらい繰り返されています。

その繰り返しには意味があります。「真理の錯誤効果」と呼ばれる心理現象を利用したものです。人は、繰り返される情報に親近感を覚え、真実味を抱くという脳の働きを持っています。

「繰り返しによって信じ込ませる」手法は、広告戦略の一つで、テレビCMは、それを如実に体現していると言えます。

歴史を振り返れば、ナチスドイツが指導者崇拝などの思想を、ポスター・映画・ラジオを通じて、繰り返し国民に刷り込みました。「嘘も100回繰り返せば真実になる」は、ナチスのプロパガンダ戦略の象徴的な言葉です。

——最近、もの忘れがひどくありませんか?
——血糖値、気になりませんか?

CMは、一見すると親切で、視聴者の健康を気遣っている装いです。しかし、実際は「健康不安」という誰もが心の奥に抱える弱点を強調し、「この商品さえ飲めば不安は解消される」という「救済」を差し出すマインドコントロールの基本構造です。

まずは一週間だけ、お試しください」の狙いとは

この構造は、オウム真理教が「ハルマゲドン(最終戦争による世界の破局)」の到来を予言し、「教祖と教団の信仰だけが生存への道である」と説いたことに重なります。「不安の喚起」と「救済の提示」が一体化した心理的誘導です。

さらにマインドコントロールを強化するために「権威効果」を用いています。「○○大学名誉教授」が登場して、「素晴らしい研究成果です」などと言ったり、「△△大学と共同研究」と表現したりして、安心材料を提供します。

また、「ハロー効果」も駆使して安心感を演出しています。「ハロー」とは「聖人や天使の頭の光」という意味で、ある一部の情報が、全体をよく見せる効果をもたらします。有名タレントたちが「もう欠かせません」「長く続けられるのはこれだけです」と力説します。そして、「天然由来」「国産」という言葉で「体にやさしい」「信頼できる」といった印象を与えています。

——まずは一週間だけ、お試しください

これも、よく聞くフレーズです。人は自分の言動に一貫性を持たせたい心理的傾向があるという「一貫性の原理」を利用したものです。ハードルを下げた誘い文句で、心理的抵抗をなくす戦略です。「ちょっとだけ」と始めた行動でも、自分の選択として受け入れると、やがて習慣化することが多いものです。だから、消費者を商品購入の入り口にやさしく導いているのです。

私は今回の記事を書くにあたって、19本の健康食品のCMを精査し、こういった人の心理現象を巧みに利用した手法が張り巡らされていることを改めて実感しました。

また、そういうCMを野放図に放送しているテレビ局のCM考査のあり方にも疑問を抱きます。そして、もっと問題の根が深いと考えるのは、CMの核心部分である「効果」の表現方法です。

「効果があります」とは書けない機能性表示食品

健康食品のCMの多くは「機能性表示食品」です。これは、「体重減少をサポートする機能が報告されています」などと成分の働きを表示できるものです。ここで、注目すべきは、「報告されています」という、何とも曖昧な言い回しを使っていることです。

成分の働きこそが商品のセールスポイントでありながら、「効果があります」とは言えず、「効果が報告されています」という表現を使うしかありません。ちなみに、特定保健用食品(トクホ)は、国が効果や安全性を審査しているので、「効果があります」と表示できます。この点について専門家は次のように解説しています。

機能性表示食品は、「文献的に機能が確認されている成分が入っているからといって、その製品に機能があるとは保証できないので、表示に『効果があります』とは書けない」(『健康食品で死んではいけない』長村洋一著・講談社+α新書)とされています。

2015年に規制緩和で導入された機能性表示食品は、トクホとは異なり、国の審査は必要ありません。科学的根拠を示すとされる研究論文を国(消費者庁)に届け出ればよいことになっています。

機能性表示食品やトクホなどの違い(出所:消費者庁ホームページ

コストや時間をかけずに、打ってつけの研究論文を提示すれば、間接的表現ながら「効果」を謳える機能性表示食品はメーカーにとって好都合なのでしょう。10年間で件数が25倍に増加しています。

*2015年度:270件→2024年度:6700件超(日本経済新聞 6月21日

一方、機能性表示食品を導入したことにより、国民生活センターへの危害相談は高止まりしているとのことです。2015年度は907件でしたが、2019、2020年度は3000件台に達し、その後も1000件台で推移し、導入前の2倍程度の水準になっているそうです(前出の日本経済新聞記事による)。

2024年3月に発覚した小林製薬の紅麹サプリ事件は、死者も出て深刻な社会問題に発展しました。この紅麹サプリも機能性表示食品で、一時は健康食品全体の安全性に対して厳しい視線が注がれました。政府も、この問題を受けて、健康被害情報の報告を義務づけるなど規制を強化しました。

紅麹事件を不幸な出来事として水に流していいのか

しかし、テレビは小林製薬の固有の問題として矮小化し、健康食品そのものについて問題提起することもなく、事件が起こっても変わりなく、健康食品のCMを大量に放送してきました。そして、小林製薬も、6月から健康食品ではないCMを1年3カ月ぶりに再開しました(食品やサプリメントを除く)。私は同社の歯間ブラシのCMが流れているのを確認しました。

小林製薬はテレビCMを通じて、会社や商品の知名度を上げてきました。テレビ局にとってはありがたいスポンサーでした。事件が発生して、共存共栄関係は一旦、破局を迎えたわけですが、ここで見逃してはいけないのは、CMでお馴染みの会社だから小林製薬を信頼した人がいるということです。

同じことは業界全体にも言えます。紅麹事件は過去の不幸な出来事として水に流して、機能性表示食品のCMを量産し続けていいのでしょうか。

高齢化社会で健康食品に商機があるのは間違いありません。政府が機能性表示食品を導入したのも経済成長戦略の一環でした。それを背景に、企業は機能性表示食品を開発し、CMで宣伝することをテレビ局は歓迎しました。

私は、この仕組みには、営利主義が優先され、安全性や倫理観が隅に追いやられている日本の経済社会の病理があると感じます。

首尾一貫して「効果」を装いながら、読めないくらい小さな文字で「効果を表すものではありません」と表示する――そんな矛盾を抱えた機能性表示食品のCM。科学的根拠が脆弱だから、それを覆い隠すために、幻惑させる手法を駆使しているのではないかと邪推してしまいます。

情報弱者とされる高齢者に健康の「ハルマゲドン」を突き付け、不安をあおるCMは、やはり問題だと言わざるを得ません。テレビ局と企業は、命と健康に関わることだと重く受け止め、健全なCMのあり方はどういう形なのか、問い直す姿勢が求められるはずです。

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