06.20
今夏もCOVID-19は流行するのか ~新変異株の影響は?【東京医科大客員教授・濱田篤郎】(時事通信) – Yahoo!ニュース
COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の流行が発生して5年以上が経過しました。ここ数年の日本での流行状況を振り返ると、夏と冬に二つのピークが生じています。夏に呼吸器感染症が流行するのは珍しい
情報源: 今夏もCOVID-19は流行するのか ~新変異株の影響は?【東京医科大客員教授・濱田篤郎】(時事通信) – Yahoo!ニュース
COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の流行が発生して5年以上が経過しました。ここ数年の日本での流行状況を振り返ると、夏と冬に二つのピークが生じています。夏に呼吸器感染症が流行するのは珍しいことですが、今年も夏に流行は再燃するのでしょうか。5月以降、アジア各地で新変異株による患者数増加が報告されており、その影響も気になるところです。今回は2025年夏のCOVID-19の流行状況について予測してみます。
◇アジアでの流行再燃
モンスーンによってもたらされた雨期の様子=2011年6月、インド東部コルカタ(EPA=時事)
今年の5月中旬から、アジアの熱帯や亜熱帯地域でCOVID-19の患者数が増加しています。この流行は東アジア(中国南部、台湾など)、東南アジア(シンガポール、タイなど)、南アジア(インドなど)と広範囲に及んでおり、各国の医療機関は外来患者で混雑していますが、重症者が増える状況にまでは至っていません。また、6月中旬には、患者数の増加が抑えられてきたとの報告も見られます。 今回のアジアでの流行の原因として、この地域が雨期に入ったことが挙げられます。アジアの熱帯や亜熱帯には雨期と乾期がありますが、雨期は屋内で過ごす時間が長くなるため、COVID-19のような呼吸器感染症の患者が増加するのです。 これに加えて、新たな変異株であるNB.1.8.1型の出現が影響しているようです。
◇新変異株の特徴
NB.1.8.1型はオミクロン株のJN.1系統に属する変異株で、今年1月末に初めて確認されました。昨年秋から世界的に流行しているXEC型やLP.8.1型と同じ系統になります。この新しい変異株の検出がアジアの流行地で増えてきたため、世界保健機関(WHO)は5月末にNB.1.8.1型を正式な監視対象(VUM:Variant Under Monitoring)にすると発表しました。 この時点でWHOは、NB.1.8.1型の伝染力はやや強いが、免疫回避能や病原性は従来の変異株と同等との評価をしています。さらに、東京大学医科学研究所が6月6日に英国の医学誌Lancet Infectious Diseaseに発表した報告でも、伝染力は従来の変異株に比べて強いものの、免疫回避能は向上していないとの結果が示されています。 こうした情報から、NB.1.8.1型は伝染力が強いことで多くの患者が発生する可能性はありますが、過去の感染やワクチン接種で得た免疫がある程度有効なため、患者数が爆発的に増えたり、重症化を起こしたりすることは少ないようです。現在のアジアでの流行状況も、この変異株の特徴を反映していると考えます。
◇温帯地域への影響
日本や欧米など温帯地域では、6月中旬までにCOVID-19の患者数の大きな増加は見られていませんが、NB.1.8.1型は既に検出されています。 国立健康危機管理研究機構によると、日本では4月の時点で検出されたウイルスの6.8%がこの変異株でした。米国でもこの変異株は急拡大しており、米疾病対策センター(CDC)のデータを見ると、検出ウイルスに占める割合が、5月に15%だったのが6月は37%に増加しました。 このように、NB.1.8.1型はアジアの熱帯や亜熱帯だけでなく、北半球の温帯地域でも流行株として置き換わりつつあります。こうした中、日本はCOVID-19の流行しやすい夏を迎えることになるのです。
◇日本でどこまで拡大するか
ここ数年、日本など温帯地域では夏にCOVID-19の大きな流行が発生しています。呼吸器感染症は冬に流行するのが一般的で、夏に流行するのは珍しい現象と言えます。 この原因の一つに、夏になると冷房の利いた屋内にとどまる時間が長くなり、多くの人が集まると、過密な環境が生じやすくなることがあります。私たちはCOVID-19に十分な免疫を持っておらず、夏でも過密な環境ができると、飛沫(ひまつ)感染が容易に起きてしまうのです。これに加えて、日本ではお盆休みなどで、夏に人の移動や接触の機会が増えることも影響しているようです。 いずれにしても、今年も夏にCOVID-19の流行が再燃する可能性は高いと考えますが、その流行株が伝染力の強いNB.1.8.1型であると、患者数は昨年の夏よりも増加することが予想されます。さらに、直近の冬の流行で日本や欧米では患者数があまり増えませんでした。NB.1.8.1型の免疫回避能は今までの変異株と同様とのことですが、私たちの側の免疫が低下していると、それだけ大きな流行になる可能性もあります。
◇今夏の具体的な対策
夏休みの帰省客らで混雑するJR東京駅の東海道新幹線ホーム=2024年8月
では、今夏はどのような対策を取ったらいいのでしょうか。 NB.1.8.1型は病原性に変化が無いとのことなので、患者の多くは夏風邪程度の症状で改善するでしょうが、伝染力が強いので、人混みではマスクをするとか、手洗いを頻繁にするなど、予防対策を強化する必要があります。人が密集する部屋では、定期的な換気にも努めてください。さらに、発熱やのどの痛みなどCOVID-19を疑う症状があれば、外出をせずに家で安静にすることも大切です。 高齢者の場合は重症化を起こすリスクがあるため、こうした対策を強めに行ってください。夏の暑い時期にマスクをするのはつらいと思いますが、感染リスクの高い環境では、できるだけ着用するようにしましょう。また、高齢者で症状があれば、早めに医療機関を受診するようにしてください。
◇秋以降まで流行が長引くと
現在、アジアの熱帯、亜熱帯での流行は次第に収束してきており、日本の夏にNB.1.8.1型が流行しても、長期化はしないとみています。しかし、この変異株の流行が秋以降まで長引く場合は、今秋から高齢者を中心に接種が始まるCOVID-19ワクチンの効果を考えなければなりません。 5月下旬に厚生労働省は、今年のワクチン株としてJN.1系統のLP.8.1型(現時点で主流の変異株)を用いると発表しました。これは5月中旬にWHOが発表した推奨株に従った対応です。このワクチンがNB.1.8.1型にも効果があるかは明らかになっていませんが、同じJN.1系統なので効果が大きく減衰することはないでしょう。 それよりも、新たな変異株が立て続けに発生している現状からすると、秋以降には次の変異株に置き換わっている可能性もあります。現在、ワクチン接種をいつまで続けるかが盛んに議論されていますが、もし続けるのなら、ワクチン株の選定方法についても検討しなければなりません。 先日、COVID-19の流行初期を描いた日本映画「フロントライン」が封切られました。映画の題材になったことで、この感染症の流行が過去の出来事と感じる方も多いと思いますが、COVID-19の流行は現在も続いており、ウイルスも刻々と変化しています。流行初期のように重篤な症状は少なくなっていますが、今後も流行状況に応じて予防対策を続けていくことが必要なのです。(了)
濱田篤郎氏
濱田 篤郎(はまだ・あつお) 東京医科大学病院渡航者医療センター客員教授 1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大で熱帯医学教室講師を経て2004年海外勤務健康管理センター所長代理。10年東京医科大学病院渡航者医療センター教授。24年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。
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