01.28
「直美」の問題は2025年にどう対処するとよいのか、「直美で十分」の意見に「いいね」が集まることに懸念、神戸大学客員教授の原岡剛一氏に聞く | ヒフコNEWS
「直美」が2024年には大きく注目を集めた。医学部を卒業後に2年間の初期研修を経て、直接美容医療の道に進む医師は依然として多いと考えられる。美容医療のトラブルが増える中で、直美への対策を求める意見は依
情報源: 「直美」の問題は2025年にどう対処するとよいのか、「直美で十分」の意見に「いいね」が集まることに懸念、神戸大学客員教授の原岡剛一氏に聞く | ヒフコNEWS
「直美」が2024年には大きく注目を集めた。医学部を卒業後に2年間の初期研修を経て、直接美容医療の道に進む医師は依然として多いと考えられる。美容医療のトラブルが増える中で、直美への対策を求める意見は依然として根強い。2025年に入り、この課題はどのように動いていくのか。日本美容外科学会(JSAPS)理事を務める、神戸大学客員教授の原岡剛一氏に話を聞いた。

原岡剛一(はらおか・ごういち)氏。(写真/編集部)
原岡剛一(はらおか・ごういち)氏
神戸大学客員教授
- 「直美」の注目→ 「直美で十分」という意見が拡散され、多くの「いいね」を集める中で独り歩きし、正論と見なされる状況に懸念がある。
- 直美の課題→ 特定分野で直美の方が技術が優れる場合もある一方で、形成外科を学ぶことで合併症への対応や修正手術といった多角的な対応力が得られる。
- 直美を選ぶ背景→ 美容外科への取り組みが少ない環境や、早期に収入を得たり施術経験を積みたいという動機が背景にある。
──2024年は「直美」の話題が盛んだった。
ここ1年ほど「直美」と呼ばれる形成外科の専門的研修を経ずに美容外科へ直接入る働き方について、SNSを中心に非常に注目されていると感じています。
もともと直美という言葉にネガティブな響きがあったと思いますが、SNSでは、断片的な意見が拡散され、「直美で十分」というような見方が多くの「いいね」を集めているのです。そうすると、あたかもそれが正論であるかのように独り歩きしていると感じられ、この点はとても懸念しています。
──直美の課題とは。
直美の課題を考えた時に、この問題は単純ではありません。
形成外科をしっかり学んだ上で美容外科に進む先生方と、大学病院や他科のトレーニングを経ずに直接美容外科を志す先生方のどちらが優れているか、という単純比較の話ではないからです。
例えば、「専門の一部分に関しては、直美でずっとそればかりやっている先生の方が技術は優れる」という主張もあれば、「形成外科で幅広い知識と技術を修得したほうが、合併症の対処や修正手術などリスク管理能力が高い」という主張もあり、一面的に結論づけるのは大変難しいと思います。
そうはいうものの、これからの美容医療を考えると、私自身は「形成外科を学んでから美容外科に進むべきだ」と考えています。単に手技だけの問題ではなく、合併症が起きたときや満足いかない結果に終わった場合の修正など、多角的な対応力が求められるからです。
わずかな範囲を深く極めること自体は悪くないのですが、それだけでは美容外科の本質を満たしません。
──直美の経歴を歩んでいる医師は多いが。
若い医師の置かれた環境によって、直美の道を選びやすくなるケースも考えられます。というのは、大学病院や学会側の教育体制が、若い医師のモチベーションに必ずしも合致しない場合もあるのです。背景には、美容外科への取り組みが少ないという大学の教育体制や指導側の問題もあるかもしれません。
例えば、昔ながらの厳しい修行を敬遠して、早くから収入面や施術経験が積みやすいことを理由に直美を選ぶ先生方もいます。しかし、それがすなわち「勉強を怠けたいから」などと一括りに否定できるものではないと感じています。直美現象だけを切り取って批判していても、問題の本質的な解決にはつながらないのです。
- 保険診療の経験→ 行政が「一定期間の保険診療経験がないとクリニック管理者になれない」という制限を検討しているが、自由診療のクリニックでは適用されないため効果は限定的。
- 2025年業界ガイドラインの策定→ 日本美容医療協会などがガイドライン作成に着手予定だが、多くの専門家や学会が連携しなければ広く通用する指針は作れない。
- 直美に対する建設的な議論の必要性→ 直美という言葉が否定的なレッテルとして広まりすぎている。美容外科全体を底上げするためには、レッテル貼りを避け、敬意を持って議論を進める必要がある。
──国全体の問題に?
今後、行政サイドでも「一定期間の保険診療経験がないと将来的に保険診療のクリニックでの管理者を担当できないようにする」など、医療全体の質を担保する方向での制限が検討されています。
しかしそれだけで直美に流れる若手医師を止められるかというと、疑問が残ります。自由診療のクリニックであれば、そもそも保険診療に関与しませんから、一定期間の保険診療を経験する必要がないため、実際には制限にならないのです。
さらに、大手美容クリニックなどで既に多くの患者さんを抱えている直美の経歴を選択した先生方はどうしたらよいのかも難しい。若手の直美の経歴を選択した医師の再教育なども考えなくてはいけません。
──2025年からは業界ガイドラインが作られる見通し。
日本美容医療協会などがガイドライン作成に向けて動き出しますが、策定には多くの専門家が集まり、多大な労力とボランティア精神が必要になります。また、形成外科、皮膚科、美容外科など複数の学会がそれぞれの立場を持ち寄りながら作らねば、広く通用する指針とはならないでしょう。
再教育の仕組みを作るにしても、大学病院で指導する立場から見ると、美容外科で既に高い報酬を得ている先生を受け入れる際の給与の格差や指導者のモチベーション低下が問題となります。指導は大変な労力を伴いますが、教わる側が「一定期間だけ修行し、技術を習得したら高収入の場に戻る」形になるとしたら、指導する側の負担感は大きいでしょう。こうした構造をどう乗り越えるか、まだ現実的なイメージが湧きにくい。
──どのように対処していけばよいか。
海外に目を向けても、韓国は美容外科を国策として推進した結果、再建外科などを担う形成外科医が減少し社会問題化していますし、イギリスでもフィラー注入の資格や規制などについて議論が進んでいるようです。どの国も美容外科は何らかの課題を抱えているので、各国の事例を参考に、日本の教育体制や制度を見直していく必要があるでしょう。
また、私が問題と感じているのは、直美という言葉そのものが、あまりに否定的なレッテルとして広まっている点です。実際、形成外科を経ていない美容外科医の中にも、技量が高く、患者さんのために真剣に努力している方は多くいらっしゃいます。ベテランの先生方にも当てはまる方はおり、しかも優れた技術や実績をお持ちの方がいます。その方々を一括りに排除するような論調では、建設的な話し合いが始められません。美容外科全体を底上げするには、そうした方々との連携、できるだけ直美と呼ばないで、お互いに敬意を払いつつ、慎重に議論を進める必要があると考えます。
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