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実はあまり知られていない大麻取締法改正、12月の法改正で大麻規制はどのように変わるのか? 【StraightTalk】難病患者に対する医薬品として期待を集める大麻草由来成分とは(1/4) | JBpress (ジェイビープレス)
2018年6月に、米食品医薬品局(FDA)は大麻草から抽出した成分を使用した抗てんかん薬・エピディオレックスの製造販売を承認しました。2019年9月には、欧州医薬品庁 (EMA)も(1/4)
大麻乱用の拡大が止まらない。2013年は1616人だった大麻検挙者数は、わずか10年後の2023年、約4倍の6482人にまで膨れ上がった。その背景として、大麻取締法では大麻の「所持」が罰則の対象となっているものの「使用」には罪が課せられないことなどが挙げられる。
一方で、大麻草には難病に有効な成分が含まれている。2024年12月12日に施行される大麻取締法の改正法で、現行法では不可能だった大麻草由来成分の医療用途での製造・販売が可能になる。
どのような疾患に大麻草由来成分が有効なのか、大麻の規制はどのように変化するのか、乱用防止に有効な手立てはあるのか──。舩田正彦氏(湘南医療大学薬学部医療薬学科教授)に話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)
──今回の大麻取締法改正の経緯、目的について教えてください。
舩田正彦氏(以下、舩田):現行の大麻取締法では、大麻草の特定の部位から抽出した成分を医薬品に使用することができません。
2018年6月に、米食品医薬品局(FDA)は大麻草から抽出した成分を使用した抗てんかん薬・エピディオレックスの製造販売を承認しました。2019年9月には、欧州医薬品庁 (EMA)も同薬を承認しています。
エピディオレックスは、従来の抗てんかん薬での治療が困難な難治性てんかんに有効な医薬品として期待されています。日本にも、難治性てんかんに苦しむ患者さんがいます。大麻草由来成分の医療用途でのニーズが高まったという点が、今回の改正の経緯、目的の一つです。
また、日本では2020年以降、若年層を中心とした大麻の乱用が問題視されており、その対策を講じる必要がありました。
これを受けて、2021年1月から6月にかけて、厚生労働省は大麻等の薬物対策のあり方検討会を開催。大麻規制のあり方や、使用に関しての罰則規定などを議論しました。
そして翌2022年に、厚生労働省に大麻規制検討小委員会が設置され、大麻規制や大麻由来成分の医療用途での使用等について、4つの方向性が示されたのです。
まず、大麻草から抽出した成分を含む医薬品を承認するための規制見直しです。また、大麻乱用防止のための施策も盛り込むことも決定しました。
さらに、規制対象の変更です。今回の改正で規制対象となるのは、大麻草に含まれるテトラヒドロカンナビノール(以下、THC)という成分です。THCは精神活性作用を有し、大麻利用により多幸感や陶酔感を与える成分として知られています。
これまでの大麻取締法の規制対象は、成熟した茎や種子及びその製品に限定されていました。これを「部位規制」と言います。今回の改正で、大麻の取締方法は「部位規制」から「成分規制」に移行します。大麻草由来のTHCを高濃度に含む製品が規制対象となるのです。
そして、2025年3月1日には「大麻草栽培の規制に関する法律」が施行されます。この法律は、医薬品利用が期待される成分を多く含む国産の大麻草の生産を促進することを目的としています。
──従来のてんかん薬と、大麻草抽出成分を含むてんかん薬には、どのような違いがあるのですか。
カンナビジオール(CBD)が持つ薬効
舩田:大麻草には、カンナビジオール(CBD)という成分が含まれています。前出のエピディオレックスには、大麻草由来のCBDが含まれており、従来のてんかん薬が効かない難治性てんかんの発作を抑える効果があります。
特に期待されているのは、ドラベ症候群、レノックス・ガストー症候群という疾患の治療です。これらの疾患は厚生労働省の指定難病(※)です。
(※)治療法が十分に確立されていない疾患で、国の医療費助成の対象となる疾患。日本では、300以上の疾患が指定難病とされている。
ドラベ症候群もレノックス・ガストー症候群も、乳幼児での発症が多い疾患です。また、エピディオレックスは難治性てんかん以外の、同じく指定難病の結節性硬化症という疾患でも効果が認められています。米国及び欧州ではエピディオレックスは結節性硬化症の用途でも製造、販売が承認されています。
エピディオレックスに含まれる大麻草由来のCBDは、非常に多彩な作用を持つことがわかっています。特に、神経の興奮状態を抑える作用は、今後、さまざまな疾患の治療に役立つ可能性があります。
──日本には、エピディオレックスの投与対象となる患者様はどの程度いるのでしょうか。
舩田:ドラベ症候群で約3000人、結節性硬化症は約1万人の患者様がいます。レノックス・ガストー症候群の患者数は不明です。エピディオレックスの投与対象となる患者様は多く見積もって、2万人から4万人と推計されています。
──今回の改正によって大麻草から抽出されたCBD成分を含むサプリメントなどの製品(以下、CBD製品)の日本国内での販売が拡大する可能性が指摘されています。
舩田:CBD製品の多くは、リラックス効果を謳って販売されることが多くあります。また、皮膚に対する保湿効果も期待されており、化粧品等に含まれるケースも見られます。
ほとんどのCBD製品には、大麻草から抽出された成分が含まれており、良い効果が期待されるCBD以外にも、成分規制の対象となるTHCを含む可能性もあります。
法改正後は、一定濃度以上のTHCを含む製品は、麻薬として規制の対象となります。罰則規定が強化されているため、注意が必要です。
また「CBD製品」と謳っていても、実際にはCBDを含んでいない粗悪なものが出てくる危険性もあります。今後は、CBD製品の品質保証も重要になると思われます。

既に報告されているTHC合成
舩田:その他の懸念事項として、用法用量が記載されていないCBD製品が市場に出回る可能性も指摘されています。エピディオレックスのような医薬品であれば、副作用等を考慮し、用法用量が細かく規定されていますが、CBD製品には医薬品のような厳しいルールは適応されません。
安心安全にCBD製品を購入、使用するには、そういった点に注意していただきたいと思います。
今後は、国内で安全性の高い大麻草を栽培し、製品の製造まで一貫した管理体制を構築することが望ましいと考えています。その際には、THCやCBDの検出を民間で推進していくことも考えていく必要があるかもしれません。
CBD製品の品質を保証するための安全認証や、安全性評価をするための第三者機関を設立し、安全性と有効性を確認しながら市場の監視をすることが求められるようになると予測しています。
──CBD製品にTHCが含まれていた場合、そのTHCを抽出・濃縮して転売するような事案が発生する可能性はありますか。
舩田:買い上げ調査で、CBD製品からTHCが検出されたという事案は、既に何件か報告されています。
ただ、そこからTHCだけを抽出して利用することは、技術的にも設備的にも、非常に高度なものが求められます。したがって、そういったかたちでの横流しが横行する可能性は極めて低いと考えています。
その一方で、CBDを原料としてTHCを合成したというケースが既に報告されています。これは、注意を要する事例です。
THCの合成は、麻薬の合成にあたりますので、厳しい罰則規定の対象となります。THC合成は、安易にすべきことではありません。
──これまで、大麻は「所持」のみが罰則の対象で「使用」は対象外でした。今回の法改正により大麻の「使用」もようやく罰則の対象となりますが、これにより大麻乱用拡大は、どの程度食い止められるでしょうか。
「大麻使用で罰則」の抑止効果
舩田:近年、若年層で大麻の乱用が拡大しています。「使用しても捕まらない」という点が、安易に大麻に手を出す理由の一つだと考えられています。そのような点で、使用にも罰則が設けられるということは、大麻乱用の抑止効果が期待できます。
一方、近年流通している大麻の中には、THC濃度が極めて高いものがあり、その危険性が指摘されています。大麻に使用罪が加わるということ、さらには流通している大麻の危険性が増大しているということを理解してもらうため、安易に乱用しないよう注意喚起していく必要があります。
──今回の法改正の全体的な評価を教えてください。
舩田:これまでの大麻取締法では、医薬品も含む大麻草由来の成分を含む製品が使用できないという規定でした。医薬品としての利用を可能にするという点で、特に対象となる疾患の患者様、ご家族の方にとっては今回の改正は非常に有意義なものであると感じています。
同様に、今回の改正では、CBD製品の流通は、今後拡大していくと推測されます。流通拡大にあたり、CBD製品の品質を保証していく必要があるでしょう。
また、使用罪を導入し、大麻使用の取締を強化するという点で考えると、大麻依存、つまり薬物依存の治療システムも併せて充実させることが望まれます。大麻の問題に関しては、乱用させないということに加えて、再乱用も防止する必要があります。そのような総合的な体制も改めて考えていかなければなりません。
関 瑶子(せき・ようこ)
早稲田大学大学院創造理工学研究科修士課程修了。素材メーカーの研究開発部門・営業企画部門、市場調査会社、外資系コンサルティング会社を経て独立。YouTubeチャンネル「著者が語る」の運営に参画中。
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