03.03
なぜ鎮痛薬は女性の方が効きにくく、副作用は強いのか、科学者も悩ませる謎(ナショナル ジオグラフィック日本版) – Yahoo!ニュース
一部の鎮痛薬がなぜ男性ほど女性に有効でないのかについては複数の説があるが、そのほとんどは性ホルモンに関係していると、米ニューヨーク州にあるレノックス・ヒル病院ノースウェル・ヘルスの疼痛医学部長キラ
情報源: なぜ鎮痛薬は女性の方が効きにくく、副作用は強いのか、科学者も悩ませる謎(ナショナル ジオグラフィック日本版) – Yahoo!ニュース
痛みは男性より感じやすく、痛みをもたらす慢性病も多い、今後は改善に向かうのか

研究によると、女性の方が男性よりも強い痛みや慢性的な症状を抱える傾向が強いものの、鎮痛薬は男性ほど効かないという。(Photograph by Digicomphoto/Science Photo Library)
人類ははるか昔から痛みと闘ってきた。しかし、痛みを和らげる方法は誰に対しても同じだった。ところが専門家は最近になって、ある重大な真実を認めるようになった。それは、痛みの感じ方は男性と女性で異なるうえ、同じ薬でも女性は男性ほど効きにくい場合があるということだ。 「病気を生む顔」になる食べ物とは 画像5点 女性や少女、そして出生時に女性と判定された人は、男性よりも痛みを感じやすく、片頭痛や過敏性腸症候群、線維筋痛症、変形性関節症などの慢性的な病気が多いことが、研究で示されている。 ところが、医師に相談しても軽くあしらわれたり、無視されたりすることも男性に比べて多く、それが治療の遅れや痛みのさらなる悪化につながっている。 また、イブプロフェン、ステロイド、オピオイド(麻薬性鎮痛薬)など、痛みを和らげる市販薬や処方薬は、女性には男性ほど効果がないことも、いくつかの研究で示されている。 実を言うと、専門家もその理由をまだよく理解していないのだと、米ペンシルベニア州立大学ベネット・ピアス予防研究センター准教授のエリザベス・ロジン氏は言う。氏は痛みに対する反応や感じ方における男女の違いを研究する神経科学者だ。 米国立衛生研究所(NIH)が資金を出す研究は、1993年になるまで女性を被験者に含めることを義務付けていなかった。NIHは米国で実施される臨床試験に対して最も多くの公的資金を提供する機関だ。 月経周期が結果を歪めるかもしれないと考えられていたうえ、もし妊娠していた場合に母子の健康を害することを恐れたためだった。研究者たちは、薬が男性に安全で有効であれば当然、女性にも同じように安全で有効だろうと考えたのだ。 しかし、それは真実とは程遠い。「女性の体の仕組みについて、またそれが痛みとどう関係しているかについて私たちはもっと知ることができるはずですし、そうすべきなのです」と、ロジン氏は言う。 では、女性の痛みの感じ方はなぜ男性と異なり、それが治療の選択肢をどう狭めているのだろうか。科学者たちには、いくつかの仮説がある。
鎮痛薬が効きにくい体のしくみ
一部の鎮痛薬がなぜ男性ほど女性に有効でないのかについては複数の説があるが、そのほとんどは性ホルモンに関係していると、米ニューヨーク州にあるレノックス・ヒル病院ノースウェル・ヘルスの疼痛医学部長キラン・パテル氏は言う。 男性よりも女性の方が多く分泌するエストロゲンは、胃の内容物の排出を遅らせ、体脂肪率を上げ、血液にあって薬物と結合する特定のタンパク質の量を減らす働きをする。2021年4月に医学誌「Journal of Clinical Medicine」に発表されたレビュー論文によると、それらは全て、体内で薬がどう行きわたり、分解されるかに影響する。 また、性ホルモンのせいもあって女性の免疫系は男性よりも活発なため、炎症反応が強くなる。米食品医薬品局(FDA)によれば、米国では女性の方が男性よりも処方鎮痛薬を頻繁に、長期間、高用量で使う傾向にあるが、これも免疫系の違いのせいかもしれない。 前出の論文によると、例えば糖質コルチコイドとNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)という2種類の抗炎症薬は、女性よりも男性の方がよく痛みを抑えるようだ。 さらに、オピオイドに対する反応も男女間で差があることを示す研究もあると、元小児救急科の医師で痛みの研究者でもあり、米ペイン・ケア研究所を創立したエイミー・バクスター氏は指摘する。 オピオイドと結合して痛みを調整する主なタンパク質であるμ(ミュー)オピオイド受容体が女性には少ないことを示唆する研究もある。これは、同じ痛みを和らげるために女性の方がオピオイドをより多く必要とすることを示唆していると、バクスター氏は言う。 しかし、この説に関しては証拠が一貫しているわけではなく、まだ結論は出ていない。オピオイドの用量に違いはないとする研究結果もあれば、女性の方が少ない用量で済むという報告もある。
女性はなぜ鎮痛薬の副作用が大きいのか
以前は人口の半分を占める女性が臨床試験から除外されていたため、現在出回っている薬の多くは、女性にとって未知の副作用や安全上のリスクを含んでいる可能性がある。 2020年6月5日付で医学誌「Biology of Sex Differences」に発表された論文は、モルヒネやプレドニゾンなど86品目の薬を、体がどう分解するかが男女間で大きく異なることを示している。女性は、そのうちほぼすべての薬の代謝速度が男性よりも遅く、その結果、血中の薬の濃度が高くなり、吐き気、頭痛、発作、幻覚などの有害な副作用も多かった。 一部の薬は副作用があまりにひどくなることがあるため、高い用量の服用を拒んだり、服用を完全にやめてしまったりする女性もいると、パテル氏は言う。 さらに深刻なケースでは、女性を守るために販売中止になった薬もある。FDAは1997年から2001年の間に、米国市場に出回っていた処方薬のうち10品目の回収を指示した。2001年に米政府監査院が発表した報告書によると、そのうち8品目が、女性にとっての健康リスクが男性よりも高かったという。
痛みが対処されないとどうなるか
必要な痛みの緩和が受けられないと、女性は生涯にわたって苦しむことになりかねない。痛みの原因である怪我や病状が悪化して、回復に時間がかかったり、処置による合併症を引き起こすおそれが高まったりする。そして、仕事、家事、子どもの世話などの日常的な動作がひどく困難になり、ときには全くできなくなることがある。 さらに追い打ちをかけるのが、「やるほかない仕事を、女性の方がより多く負っているという現実です」と、バクスター氏は指摘する。例えば、米世論調査会社ギャラップが2019年に行った調査では、男女のカップルの場合、女性の方が料理、掃除、洗濯、皿洗い、食料品の買い出し、育児を日常的に引き受けている傾向がわかった。 「社会的に、男性は体に痛みを感じても休むのがずっと楽です。しかし、女性として生きていると、『やめる』という選択肢がなくて……それが痛みの感じ方に影響している可能性があります」と氏は言う。 「ですから、女性にとって障害を負うということは、男性よりも大きな問題なのです」と、バクスター氏は付け加えた。 急性の痛みは、時間がたつと慢性的な痛みに変わることがあると、パテル氏は言う。これが不安症やうつ病につながる場合もあれば、自己治療の最後の手段として薬物の乱用に走ってしまう場合もあるかもしれない。 依存性の高いオピオイドが関わってくると、さらにリスクは高くなると、バクスター氏は言う。 「女性は、報いや満足感を感じにくい傾向にあるため、依存症やオピオイドの過剰摂取に陥りやすいのです。そして、いったん乱用し始めると男性より急速に摂取量が増え、より強い欲求を覚えます」
女性にとっての痛みの緩和の未来とは
専門家は、女性が安全で有効な痛みの緩和を選択できるように、臨床試験における透明性を高める必要があると指摘する。 すでに改善は進められている。例えば研究者たちは、女性の痛みを数量化し、新たな治療法の開発を速めうるバイオマーカー(生物学的指標)を特定しようとしている。 一方、痛みを抱えている女性のために女性自身が声を上げていくことも重要だと、ロジン氏は言う。 「それが私たちの責任だとは言いませんが、待っているだけで何かが起こるとは限りません。事前に調べて、自分の治療に積極的にかかわっていけば、それが将来の自分のためになるのです」
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