02.05
グロースファクター注入によるほうれい線の改善、有効性や安全性は大丈夫か、国内には「ほうれい線専門クリニック」を示す複数の施設が存在、FGF+bFGFではしこり発生で訴訟トラブルも【編集長コラム】 | ヒフコNEWS
グロースファクター注入によりほうれい線を改善するという施術を提供しているクリニックが存在しているが、グロースファクターだけを注入して、無差別に組織を増やすことで、シワを改善する施術の安全性は大丈夫なの

ほうれい線が目立つ?写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)
グロースファクター注入によりほうれい線を改善するという施術を提供しているクリニックが存在しているが、グロースファクターだけを注入して、無差別に組織を増やすことで、シワを改善する施術の安全性は大丈夫なのだろうか。
美容医療に使われるbFGFを巡る課題

ほうれい線にグロースファクターを使えるのか。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)
ほうれい線の改善のためのグロースファクター注入を提供しているクリニックの表記には、何の薬を使っているか明記されている例があまり見られないが、美容医療では、bFGF(塩基性線維芽細胞成長因子)がグロースファクターとして一般的に使われている。
よく知られているのが、PRP(多血小板血漿)にbFGFを添加して注射し、シワ改善などに使う施術だ。PRPは、遠心分離器で血液から、赤血球や白血球を分離して、残りの透明な血漿に血小板が含まれているものを使用する。血小板からは組織を増やす成長因子が出ると考えられており、これにより組織を増やす効果を狙う。bFGFはこの組織を増やす効果を高めるために追加される。
問題なのは、bFGFが組織を増やしすぎることで、しこりを作ったり、肌の表面がふくらみすぎたりするトラブルを引き起こすことだ。
日本の美容医療のガイドラインである美容医療診療指針(令和3年版)では、PRP+bFGFは、「行わないことを弱く推奨する」と明記されている。「安易には勧められない」、「注入部の硬結や膨隆などの合併症の報告も多く、bFGFの注入投与は適正使用とは言えない」と慎重な見方を示している。
また、前提として、bFGFは国内で販売されているが、傷やヤケドにスプレーして傷口の治りを促す薬であり、皮膚に注入するためのものではない。メーカーは、シワや皮膚のへこみに対して注入することについて有効性や安全性が確立されていないと文書を公表している。
そうした記載があるものの、PRPにbFGFを添加する方法は、実際には美容クリニックで行われている。それは、やり方次第では、有効な施術になると考える医師がいるからだ。一方で、標準的な方法が確立しておらず、有効性や安全性についての医師の意見は分かれている。PRP+bFGFに対して強く反対する医師も少なくない。
トラブルが起きたことによる訴訟も起きている。PRP+bFGFの施術の後にしこりが残るトラブルが起きて、美容クリニックを訴えたもの。これは2025年1月に調停が図られて、美容クリニックは、訴えた女性に対して施術費や治療費の解決金を支払うことになった。
また、グロースファクター単独の注入によるシワ改善の施術については、美容医療診療指針に掲載すらされていないので、有効性や安全性は評価されていない段階だ。美容医療の施術には、同様にガイドラインに掲載されていないものが多いが、グロースファクター注入の評価が定まっていないことは、この施術を検討する人は知る必要がある。
国内には、「ほうれい線専門クリニック」という特徴を示す施設が複数確認できる。一部にはグロースファクター注入を前面に打ち出しているところもある。そうしたクリニックを受診するとグロースファクター注入が勧められる可能性があるが、提供されるのは、有効性や安全性の根拠が十分ではない施術であることは理解することが重要だろう。
bFGFの利用は「原始的」

ほうれい線の適切な施術とは。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)
ヒフコNEWSでは、幹細胞研究の専門家で、オール・アバウト・サイエンス・ジャパン(AASJ)代表理事の西川伸一氏に、美容医療でのbFGFの使用について2023年に見解を聞いた。
西川氏は、「どの種類の線維芽細胞に効いてもいいからと、漫然と多くの種類の線維芽細胞に効果を示すbFGFを使っているのは、ものすごく原始的と感じます」と指摘した。
シワ改善にbFGFを使っているとしても、それがなぜ組織を増やすのかが解明されていないのではないかと疑問を呈している。
西川氏の見解では、基本的には、bFGFを注入することで、肌の表面の下にしこりを作って、皮膚を伸ばすという考え方になる。一方で、組織が増えすぎると、肌の表面が広くなってかえってシワができやすくなる恐れもある。「20、30年前の話を実際に臨床でやっている印象はあります」というのが西川氏の見立てだった。
もっとも西川氏は人を対象として臨床試験を実施して、有効性や安全性を確かめて、それらが証明されれば、結果として認められるとも述べている。ただし、グロースファクターだけを注入する治療については、そのような試験は論文報告されていない。
グロースファクターによってほうれい線を改善するというのも、因果関係がよく分からない中で、科学的根拠の乏しい美容施術が行われていると考えられる。美容医療では、科学的根拠が不十分な施術が行われていることは多いが、ガイドラインに掲載されていないグロースファクター単独の注入は有効性や安全性について良く分かっていないことを理解しておくことが重要だろう。
そもそも美容医療で使う薬剤名は、正式名称で表記するルールを明確に定めるべきではないだろうか。その上で、科学的根拠があるのかないのか、施術を受ける人のためが判断しやすいように示すことも有効だろう。2025年は美容医療の業界ガイドラインの作成が進む見通しだが、施術を選ぶための情報提供の標準化も重要な課題になると見られる。
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