11.05
連続的に発症する子どものアレルギー、専門医への早期受診で予防を | 「Future Doors」 サイエンス&メディカルのデジタルメディア
子どもの健康に関する心配事としてアレルギー疾患を挙げる親は少なくない。特に、乳幼児期のアトピー性皮膚炎などを始まりとして、成長するにつれて新たなアレルギー疾患を次々と発症する「アレルギーマーチ」の経過をたどる子どももいるため、対策と予防が重要だ。なぜアレルギーマーチは起こるのか。早期の専門医受診がなぜ対策と予防の鍵となるのか。そのメカニズムと適切な対処法について、アレルギーの専門医に話を聞いた。
情報源: 連続的に発症する子どものアレルギー、専門医への早期受診で予防を | 「Future Doors」 サイエンス&メディカルのデジタルメディア
子どもの健康に関する心配事としてアレルギー疾患を挙げる親は少なくない。特に、乳幼児期のアトピー性皮膚炎などを始まりとして、成長するにつれて新たなアレルギー疾患を次々と発症する「アレルギーマーチ」の経過をたどる子どももいるため、対策と予防が重要だ。なぜアレルギーマーチは起こるのか。早期の専門医受診がなぜ対策と予防の鍵となるのか。そのメカニズムと適切な対処法について、アレルギーの専門医に話を聞いた。
乳児湿疹から始まり、食物アレルギー、ぜんそく、アレルギー性鼻炎が連続的に発症
食物アレルギーを発症する割合は生まれてから1歳までの乳児期が最も高く、さらにアトピー性皮膚炎の症状も併せて見られるケースが多い1)。こうした患者は成長するとともに、ぜんそくや、花粉やダニなどが原因のアレルギー性鼻炎も発症することがある。このように、乳幼児期から12歳頃までの期間で、あるアレルギーの発症をきっかけに他のアレルギーも連続的に発症する現象が「アレルギーマーチ」(図1)だ。異なるアレルギー症状が次々と起きる現象を「行進(マーチ)」に例えて表現したものである。
あいち小児保健医療総合センターのセンター長 兼 免疫・アレルギーセンター長である伊藤浩明医師によると、アレルギーマーチの始まりは乳児湿疹やアトピー性皮膚炎であり、つまり乳児期に皮膚からアレルギーの原因物質が体の中に入り込むことだと考えられているという。その後、食物アレルギーを発症し、小学校に入学する頃に息をするときにヒューヒューやゼーゼーという音がする喘鳴(ぜんめい)の有症率がピークになり2)、さらに花粉症を含むアレルギー性鼻炎を発症するようになる。
そもそもアレルギーには、「感作」と「発症」という2つのステップがある。感作とは、アレルギーの原因物質であるアレルゲンに初めて接触し、アレルギー反応を引き起こすIgE(免疫グロブリンE)抗体が作られる発症の準備段階のことをいう。感作が成立した上で、再びアレルゲンが体内に侵入すると、肥満細胞上のIgE抗体と結合し、ヒスタミンやロイコトリエンが放出される。それらが皮膚のかゆみやじんましん、くしゃみ、気管支の収縮などアレルギー症状を引き起こす。これがアレルギーの発症である。
アレルギーマーチは全ての人に起こるわけではなく、感作を起こしやすい人ほどアレルギーマーチが進行しやすいと考えられている。感作が起きやすい根本にはアトピー素因という遺伝的な要因があると考えられている。アレルギーを起こしやすい生まれつきの体質のようなものだ。
伊藤医師によると、診療の現場では、家族にアレルギーがある人がいる場合、その家族もアトピー素因があると判断することが多いという。より具体的なメカニズムとして、アトピー素因を有する人は、アレルゲンに接触すると、IgE抗体を作るシグナルとなる物質(インターロイキン(IL)-4やIL-13)などを体内に多く放出しやすい傾向がある。これにより体内のIgE抗体が増え、アレルギー感作が起こりやすくなると考えられている。その他にも、皮膚の水分保持を促進し、バリア機能を高めるフィラグリンというタンパク質を作る量が少ない人は、皮膚での感作が起こりやすい。
アレルギーマーチは全てのアレルギーが積み重なるとも限らない。乳幼児期にアトピー性皮膚炎と食物アレルギーを同時に発症していても、5歳頃になるとどちらか一方のアレルギー症状が落ち着き、もう片方のアレルギーは継続することもある。症状の軽減や悪化、再発を繰り返すのもアレルギーの特徴だ。
皮膚バリアが低下すると皮膚で食物アレルギーの感作が起きる
アレルギーマーチは1980年代、小児科医で日本小児アレルギー学会の初代理事長である馬場實医師(1929~2012年)が提唱した。伊藤医師は、「当時は具体的なメカニズムが分かっていたわけではなく、多くの患者さんの推移を観察している中で『こういう傾向がありそうだ』というところから始まりました」と話す。
ただ、当時は食物アレルギーから始まり、次に湿疹やアトピー性皮膚炎につながるものと考えられていたようだ。1980〜90年代、一部の医師の中では「アトピー性皮膚炎に対する除去食療法」が盛んに行われていた。伊藤医師は「当時は私も、食物アレルギーがあるから湿疹が生じると考えていました」と振り返る。
2000年代になると、スキンケアを徹底することで他のアレルギーの感作や発症を抑えられるのではないかと考えられるようになってきた。そして2008年、イギリスの小児科医のギデオン・ラック医師が「皮膚でアレルギー感作が起きる」という二重アレルゲン暴露仮説を提唱した。これは、ピーナッツ油を含む保湿剤を肌に塗布していた乳幼児ほど、ピーナッツアレルギーになりやすいという調査結果などに基づいている。現在では、湿疹やアトピー性皮膚炎などで皮膚バリアが低下し、皮膚で感作が生じることで食物アレルギーになることもあると考えられている。皮膚に症状がある場合には、医師の指導の下、必要に応じて、たとえ顔であってもステロイドなどの薬剤も使用しながら皮膚症状の改善に努めることが重要だ。
ただし、全てのアレルギーが、皮膚感作が原因で発症するというわけではないと、伊藤医師は注意を呼びかける。
「口から食べたものに対して、絶対に感作が起きないことが証明されているわけではありません。口から食べたものについては、腸で免疫系が無害であることを認識する腸管免疫が正常に機能することが前提にあります。動物実験では、腸管の粘膜バリアが壊されると、食べたものに対して感作が成立することが示されています」
凝縮されるようになってきたアレルギーマーチの期間
アレルギーマーチでは、食物アレルギーが重症な場合にはぜんそくの発症リスクが高いとされている。ただ、伊藤医師によると、ぜんそくがアレルギーによるものか感染症などを原因とした一時的なものか区別しにくく、食物アレルギーとぜんそくの合併率を正確に調査することが難しいようだ。
ぜんそくに関して、最近は症状が出る年齢が低くなっているように感じると、伊藤医師は述べる。
「ぜんそく症状が1歳から現れることがあります。2歳の時点で検査をすると、スギ花粉の感作が認められることもあり、30年前から比べるとかなり早まっているように感じます」
古典的なアレルギーマーチでは、ぜんそくが発症してから花粉やダニなどを原因とするアレルギー性鼻炎が起きるという流れが想定されていた。ところが、伊藤医師は個人的な印象と断った上で、花粉やダニの感作が先行して成立しており、その後感染症などを機にぜんそく症状が現れる患者も増えているという。
「ぜんそくとアレルギー性鼻炎の発症時期が近づいており、アレルギーマーチが2歳までの低年齢の間に凝縮されているように思えます」(伊藤医師)
スキンケアによって食物アレルギーを予防できる可能性があるように、アレルギー性鼻炎を治療することでぜんそくの発症を予防できるのではないかという議論もあるようだ。
症状のコントロールには専門医への早期受診が肝要
伊藤医師がセンター長を務めるあいち小児保健医療総合センターの免疫・アレルギーセンターでは、アレルゲンごとに反応する特異的IgE抗体を調べる血液検査を年1回程度行い、ぜんそく症状の有無を確認しながら、血液検査の結果に基づいて指導をしている。比較的重症な患者が多く、診療ではアレルギーマーチという言葉や内容を説明するよりは、今の症状をどうコントロールするかの指導に重点を置いていると伊藤医師は話す。
複数種類のアレルゲンに対する特異的IgE抗体を同時に測定する検査については、全体的な傾向を把握するには有効だと、伊藤医師は考えている。例えば、吸入系のアレルゲンのうち、スギのみなのか、その他の植物にも陽性なのかによって対策は変わる可能性がある。こういった複数種類のアレルゲンに対する特異的IgE抗体検査は、自身のアレルギー体質を把握するのに役立つかもしれない。ただし、特異的IgE抗体が陽性になったものが、全てアレルギー症状を起こしているわけではないことに注意が必要だ。
小児や大人に限らずアレルギーかもしれないと思ったら、早期にアレルギーの専門医を受診してほしいと、伊藤医師は呼びかける。
「単に小児科や皮膚科、アレルギー科という標ぼうだけでなく、アレルギーの専門医であるかどうかを医療機関のウェブサイトなどで確認することが大切です。アレルギーを専門とする医師の診療を受けることが最も大事な入り口になると思います」
アレルギーは対症療法で済ませるのではなく、原因を特定した上で専門医の指示に従うことが治療への第一歩と言えるだろう。
参考文献
- 1)一般社団法人日本アレルギー学会「アレルギーの手引き2025」
https://www.jsaweb.jp/huge/JSA_tebiki2025.pdf - 2)日本小児アレルギー学会「第3章 疫学・発症の危険因子と一次、二次予防」小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2023、30-50
関連記事
コメント
この記事へのトラックバックはありません。




この記事へのコメントはありません。